【連載】まんなかに子どもがいる保育―ともに育ち合うために

水内 豊和(みずうち とよかず)
島根県立大学人間文化学部保育教育学科・准教授
公認心理師、博士(教育情報学)
長年、発達障がいのある子どもやその家族の心理・発達相談支援、市町村の保健センターの乳幼児健診の心理発達相談員、保育所巡回相談、大人の余暇サークルなど発達臨床にかかわる。発達障がい児の保護者のペアレントトレーニング、発達障がい児のソーシャルスキルトレーニングなど。親子サークルや親の会の運営なども。
主な著書に、『よくわかる障害児保育』(編著・ミネルヴァ書房)、『よくわかるインクルーシブ保育』(編著・ミネルヴァ書房)、『インクルーシブ社会の障害学入門』(単著・ジアース教育新社)ほか多数。
2024年9月から2025年3月まで、山陰中央新報の朝刊に「水内先生のみんなが主役!絵本の世界」という連載にて、障害をテーマにした絵本をわかりやすく解説していました。現在も、以下から無料で自由に読むことができます。
https://note.com/tmlab2003/n/n685d0a79f905
第1回 “早くより、いっしょに”―保護者と共に歩む支援
第2回 こだわりや“好き”を力にかえる―遊びの中で育つ子どもの自信
第3回 みんなと一緒に育つ―多様性を認め合うインクルーシブな保育
第1回 “早くより、いっしょに”―保護者と共に歩む支援
子どもの発達に気がかりがあるとき、保育者と保護者の感じ方がすれ違うことがあります。保育者は「早めに専門的な支援につなげたい」と願い、保護者は「もう少し見守りたい」と考える。どちらも子どもを思う気持ちからの言葉ですが、立場や経験の違いが、時に誤解や距離を生むこともあります。
「診断」や「受容」といった言葉は、支援の場でよく耳にしますが、保護者にとっては心の準備が必要な言葉です。発達への理解や受け止め方には、それぞれの時間があります。保育者が焦って結論を急ぐより、「いま、この保護者がどんな思いで子どもを見ているのか」に寄り添い耳を傾けることが、信頼の出発点になるのだと思います。
支援とは、何かを教えたり導いたりすることだけではありません。保護者と共に悩み、考え、ときに立ち止まることも大切な支援です。たとえば「家ではできます」とおっしゃる保護者に対しては、園で見られる子どもの姿を ―それは、できないことや苦手なことだけでなく、ステキなエピソードや得意な部分もセットで― ていねいに伝えることで、保護者がわが子を新しい目で見つめ直すきっかけになることもあります。そうした小さな積み重ねが、子どもと家庭の安心につながっていくのです。
浜田市保育連盟のHPにも「園児と保護者に寄り添う保育を志します」とあります。この言葉は、まさに現場の保育を支える理念だと感じます。
私が出会ったある保護者の方は、子どもがもう成人年齢になった今でも、保育園の時の連絡帳を大切に保管しておられます。そして「その当時は、保育園の先生に対してもっと子どものことを理解してほしいと思っていたけど、今こうして子どもが大きくなってみると、小学校に上がってからよりも、あの時の保育園の先生が一番この子のことを見て、聞いて、考えてくれてたんだなぁと思うのです。そして今でもこの保育園時代の連絡帳を見返して、私が元気をもらっているんです。」とおっしゃいます。
支援の出発点は、“早くより、いっしょに”。その姿勢が、子ども・保護者・支援者の三者を結び、園だけではなく地域も含め、多様性を包み込むあたたかな保育を支えていくのではないでしょうか。保護者の皆さんも、何か気がかりがあれば、安心して保育園の先生にご相談いただければと思います。
